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だいほうしゃくきょう

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

大宝積経

Mahāratnakūṭa_sūtra 49会(え)、120巻
訳者:唐の菩提流支訳(713年)

 菩薩の修行や授記に関する49の独立経典を集めて、宝の集積になぞらえたもの。
 迦葉所問経を中心にして種々の経典を編入、あるいは新作して成立したものと推定される。

  1. 三律儀会(3巻)。菩提流志の訳。北涼の曇無讖の訳の大方広三戒経(3巻)の異訳。
  2. 無辺荘厳会(4巻)。菩提流志の初訳。
  3. 密通金剛力士会(7巻)。西晋の竺法護の訳の密通金剛力士経を編入。異訳に北宋の法護の訳の如来不思議秘密大乗経(20巻)がある。
  4. 浄居天子会(2巻)。竺法護の訳の菩薩説夢経を編入。
  5. 無量寿如来会(2巻)。菩提流志の訳。無量寿経の異訳。
  6. 不動如来会(2巻)。菩提流志の訳。後漢の支婁迦讖の訳の阿閦仏国経(2巻)の異訳。
  7. 被甲荘厳会(5巻)。菩提流志の初訳。
  8. 法界体性無分別会(2巻)。梁の曼陀羅の訳の法界体性無分別経を編入。
  9. 大乗十法会(1巻)。北魏の仏陀扇多の訳の十法経を編入。梁の僧伽婆羅の訳の大乗十法経(一巻)の異訳。
  10. 文殊師利普門会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の竺法護の訳の普門品経(1巻)の異訳。
  11. 出現光明会(5巻)。菩提流志の初訳。
  12. 菩薩蔵会(20巻)唐の玄奘の訳の大菩薩蔵経を編入。異訳に北宋の法護らの訳の大乗菩薩蔵正法経(40巻)がある。
  13. 仏為阿難説処胎会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の竺法護の訳の胞胎経(1巻)の異訳。
  14. 仏説入胎蔵会(2巻)。唐の義浄の訳の仏為難陀説出家入胎経を編入。
  15. 文殊師利授記会(3巻)。唐の実叉難陀の訳の文殊師利授記経を編入。西晋の竺法護の訳の文殊師利仏土厳浄経(2巻)の異訳。さらに異訳として唐の不空の訳の大聖文殊師利菩薩仏刹功徳荘厳経(3巻)がある。
  16. 菩薩見実会(16巻)。北斉の那連提耶舎の訳の菩薩見実三昧経を編入。異訳に北宋の日称らの訳の父子合集経(20巻)がある。
  17. 富楼那会(3巻)。後秦の鳩摩羅什の訳の菩薩蔵経を編入。
  18. 護国菩薩会(2巻)。隋の闍那崛多の訳の護国菩薩経を編入。異訳に北宋の施護の訳の護国尊者所問大乗経(4巻)がある。これには梵文原本も存在する。
  19. 郁伽長者会(1巻)。魏の康僧鎧の訳の郁伽長者所問経を編入。後漢の安玄の訳の法鏡経(1巻)、西晋の竺法護の訳の郁伽羅越問菩薩行経(1巻)の異訳。
  20. 無尽伏蔵会(2巻)。菩提流志の初訳。
  21. 授幻師跋陀羅記会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の竺法護の訳の幻士仁賢経(1巻)の異訳。
  22. 大神変会(2巻)。菩提流志の初訳。
  23. 摩訶迦葉会(2巻)。東魏の月婆首那の訳の摩訶迦葉経を編入。
  24. 優波離会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の敦煌三蔵の訳の決定毗尼経(1巻)の異訳。さらに異訳として唐の不空の訳の三十五仏名礼懺文(1巻)がある。
  25. 発勝志楽会(2巻)。菩提流志の訳。隋の闍那崛多の訳の発覚浄身心経(2巻)の異訳。
  26. 善臂菩薩会(2巻)。後秦の鳩摩羅什の訳の善臂菩薩経を編入。
  27. 善順菩薩会(1巻)。菩提流志の訳。三国魏の白延の訳の須頼経(1巻)、東晋の支施侖の訳の須頼経(1巻)の異訳。
  28. 勤授長者会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の白法祖の訳の菩薩修行経(1巻)、北宋の施護らの訳の無畏授所問大乗経(3巻)の異訳。
  29. 優陀延王会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の法炬の訳の優填王経(1巻)、北宋の法天の訳の大乗日子王所問経(1巻)の異訳。
  30. 妙慧端女会(1巻)。菩提流志の訳。須摩提菩薩経の異訳。
  31. 恒河上優婆夷会(1巻)。菩提流志の初訳。
  32. 無畏徳菩薩会(1巻)。北魏の仏陀扇多の訳の無畏徳菩薩経を編入。西晋の竺法護の訳の阿闍貰王女阿術達菩薩経(1巻)の異訳。
  33. 無垢施菩薩応弁会(1巻)。西晋の〓道真の訳の無垢施菩薩分別応弁経を編入。西晋の竺法護の訳の離垢施女経(1巻)、北魏の瞿曇般若流支の訳の得無垢女経(1巻)の異訳。
  34. 功徳宝花数菩薩会(1巻)。菩提流志の初訳。
  35. 善徳天子会(1巻)。菩提流志の訳。同人の訳の文殊師利所説不思議仏境界経(1巻)の改訳。
  36. 善住意天子会(4巻)。晴の達摩笈多の訳の大方等善住意天子所問経を編入。北魏の毘目智仙・般若流支の訳の聖善住意天子所問経(3巻)、西晋の竺法護の訳の如幻三昧経(2巻)の異訳。
  37. 阿闍世王子会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の竺法護の訳の太子刷護経(1巻)、訳者不詳の太子和休経(1巻)の異訳。
  38. 大乗方便会(3巻)。東晋の竺難提の訳の大乗方便経を編入。西晋の竺法護の訳の慧上菩薩大善権経(2巻)、北宋の施護の訳の大方広善巧方便経(4巻)の異訳。
  39. 賢護長者会(2巻)。隋の闍那堀多の訳の移識経を編入。異訳に唐の地婆訶羅の訳の大乗顕識経(2巻)がある。
  40. 浄信童女会(1巻)。菩提流志の初訳。
  41. 弥勒菩薩問八法会(1巻)。北魏の菩提流支の訳の弥勒菩薩所問経を編入。後漢の安世高の訳の大乗方等要慧経(1巻)の異訳。
  42. 弥勒菩薩所問会(1巻)。菩提流志の訳。西晋の竺法護の訳の弥勒菩薩所問本願経(1巻)の異訳。
  43. 普明菩薩会(1巻)。訳者不詳の大宝積経を編入。後漢の支婁迦讖の訳の遺日摩尼宝経(1巻)、訳者不詳の摩訶桁宝厳経(1巻)、北宋の施護の訳の大迦葉問大宝積正法経(5巻)の異訳。梵語原本もある。
  44. 宝梁聚会(2巻)。北涼の釈道巽の訳の宝梁経を編入。梵語原本ラトナラーシ Ratnarāśi の断片が残っている。
  45. 無尽意菩薩会(1巻)。菩提流志の初訳。
  46. 文殊説般若会(2巻)。梁の曼陀羅仙の訳の文殊師利所説摩訶般若波羅蜜経を編入。唐の玄奘の訳の大般若経第七会曼殊室利分に相当し、梵語原本もある。
  47. 宝髻菩薩会(2巻)。西晋の竺法護の訳の宝髻菩薩所問経を編入。大方等大集経の宝髻菩薩品(北涼の曇無讖の訳)の異訳。
  48. 勝鬘夫人会(1巻)。菩提流志の訳。勝鬘経の異訳。
  49. 広博仙人会(一巻)。菩提流志の訳。北魏の瞿曇般若流支の訳の毘耶娑問経(2巻)の異訳。

 以上の49篇は成立年代もさまざまで、2世紀以前の成立と見られるものから5世紀以降に成立したと推定されるものまである。49篇の集成が従来から存在したものか、菩提流志の構想によるものかは明らかでない。
 ターラナータ仏教史ではカニシカ王の時代に多くの経典をあわせて現在のような構成に集大成したと伝えている。
 チベット訳でもまったく同じ構成となっているが、49会のうち7会は漢訳からの重訳とみられ、漢訳にならって編集されたものと思われる。

 宝積経と名づける経典は古くから存在したが、それは上記の第43会普明菩薩会に相当するもので、当初はカーシャパ・パリプリッチャーKāśaypa-paripŗcchā(迦葉所問経)と呼ばれていたらしい。その梵語原本はカーシャパ・パリヴァルタという表題で、シュタール・ホルスタイン A. von Staél-Holsteinによって刊行された(1926)。これに対しては安慧に帰せられる註釈書の大宝積経論(4巻。後魏の菩提流支の訳。チベット訳もある。T26)がある。この元来の宝積経を核として、次々と経典を新作あるいは編入していった結果、現在の大宝積経が形成されたと想像される。T11