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だいにちきょう

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

2019年2月4日 (月) 22:17時点におけるマイコン坊主 (トーク | 投稿記録)による版 (大日経)

大日経

具名:大毘盧遮那成仏神変加持経
Skt. Mahāvairocanā-bhisaṃbodhivikurvitādhiṣṭhāna-vaipulyasūtrendrarāja-nāma-dhar-maparyāya。
Tib.Rnan par snaN mdsad chen po mNon par rdsogs par byaN chub pa rnam par-sprul pa byin gyis rlob pa zin-tu rgyas pa mdo sdeHi dbaN poHi rgyal po shes bya baHi chos kyi rnam graNs.
漢訳:善無畏(シュバカラシンハ Subhakarasimha)〔開元12年(724年)〕

漢訳の経緯

 唐の『開元釈経録』によると、中インドより来唐した善無畏が翻訳し、一行が筆受した。全7巻36品で、第7巻は付随の儀軌。梵本は、インドに学んだ無行が請来しようとしたが、帰国の途中、北インドで亡くなったので、善無畏がこれを取りにゆかせて入手した。無行はナーランダに留学したから、この地で本経の梵本を入手したであろう。ただし、第七巻の梵本は善無畏自身が北インドで入手した。
 これからわかることは、本経はナーランダで編集された可能性があり、『大日経』の成立は6世紀前半で、6世紀中葉にはすでにおこなわれていたと考えられる。

チベット訳の経緯

 チベット訳は、8世紀初めレパチェン(Ral-pa-cen)王のときに、インド人翻訳官シーレーンドラ・ボーディ(Sile-ndrabodhi)とチベット人学匠ペーチェク(dPal-brtegs)とが翻訳した。
 この原題は漢訳の場合と若干異なって『大毘盧遮那現等覚神変加持方広経のインドラ王と名づける法門』であり、29章よりなっている。

日本招来

 『大日経』は、すでに奈良時代に、おそらく玄昉(-746年)らによって請来され、書写されたことが『正倉院文書』の写経目録にある。現存するものは、奈良西大寺所蔵の天平神護二年(776年)に吉備由利が写したものがある。
 空海は入唐以前に『大日経』を入手し披見していた。空海の『請来目録』には『大日経』はなく『大日経疏』のみがある。
 また『大日経義釈』は天台宗で、『大日経蔵』は真言宗で用いている。

内容

第一巻・入真言門柱心品第一……チベット訳、(1) 心の差別を説く章。
第二巻・入曼荼羅其様真言品第二……同、(2) 曼荼羅建立の秘密真言蔵の章。
    息障品第三……同、(3) 障害を滅することを広く説く章。
    普通真言蔵品第四……同、(4) 普通真言蔵を広く説く章。
第三巻・世間成就品第五……同、(5) 世間の人の悉地成就を説く章。
    悉地出現品第六……同、(6) 悉地成就の自性を説く章。
    成就悉地品第七……同、(7) 悉地成就の自性を説く章。
    転字輪曼荼羅行品第八……同、(11) 字輪を広説する章。
第四巻・密印品第九……同、(10) 字輪を広く説く章。
第五巻・字転品第一〇……同、(12) 一切種に入る門で、法の字法を説く章。
    秘密曼荼羅品第一一……同、(13) 秘密曼荼羅を広く説く章。
    入秘密曼荼羅法品第二一……同、(14) 秘密曼荼羅に入ることを説く章。
    入秘密曼荼羅位品第一三……同、(16) 秘密曼荼羅の位に入ることを広く説く章。
    秘密八印品第一四……同、(15) 秘密八印を説く章。
    持明禁戒品第一五……同、(17) 明真言の禁戒を広く説く章。
    阿闍梨真実智品第一六……同、(18) 阿闍梨の自性と名づけるものを説く章。
    布字品第一七……同、(19) 字の建立を広く説く章。
第六巻・受方便学処品第一八……同、(20) 菩薩の学処のすべてをたもつことを説く章。
    説百字生品第一九……同、(21) 百字生を示すことを広く説く章。
    百字果相応品第二。……同、(22)(百字の)果を結ぶことを広く説く章。
    百字位成品第二一……同、(23) 百字の完全なる建立を成就することを説く章。
    百字成就持顔品第二二……同、(24) 我性の成就を説く章。
    百字真言法品第二三……同、(25) 百字真言の儀軌を説く章。
    説菩提性品第二四……同、(26) 菩提成就の自性を示すことを説く章。
    三三昧耶品第二五……同、(27) 三誓言行を説く章。
    説如来品第二六……同、(28) 如来を示すことを説く章。
    世出世護摩法品第二七……同、(29) 真言門により菩薩行をおこなうところの儀軌のすべてを説く章。
    説本尊三昧品第二八……同、(7) 本尊三昧の確定を説く章。
    説無相三昧品第二九……同、(8) 無相三昧を説く章。
    世出世持顔品第三〇……同、(9) 世間・出世間の持顔の自性を説く章。
    嘱累品第三一……同、(29) 真言門により菩薩行をおこなうところの儀軌のすべてを説く章。
第七巻・供養念誦三昧耶法門真言行学処品第一。
    増益守護情浄行品第二。
    供養儀式品第三。
    持誦法則品第四。
    真言事業品第五。

構成と世界

 『大日経』全体の内容構成をみると、理論部門(教相)と実修部門(事相)とに分かれる。理論部門は第1巻入真言門住心品第一がそれであり、実修部門は第2巻入曼荼羅真言具縁品第二以下である。
 入真言門住心品とは、真言の部門に入る心のあり方の章を意味する。一切智智を得る因は菩提心であり、根は大悲であり、究竟は方便であると示す。菩提心には、(1) 白浄の信心(大日如来の一切智智をわれわれがすべて具有するという確信)、(2) 菩提を求める心、(3) 菩提の心、の三つの意味がある。要するに、菩提とは「実の如く自心を知ること」(如実知自心)であり、自心の空性をさとることである。
 悲は大悲であってすべての人びとに対する絶対の慈愛である。これが一切智智を得る根だという。
 方便は人びとを導き救う手だてであって、具体的には菩薩の六波羅蜜の実践行すなわち布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧である。こがそのまま一切智智を得る目的である。
 以上の「菩提心を因とし、(大)悲を根とし、方便を究竟とする」というのは、三句の法門とよばれ、この品の根幹をなしている。

 次に、菩提心に関する九つの質疑応答がある。
 仏教以外の宗教、哲学説における自我観を紹介して、凡夫の心のありかたが説かれる。これは倫理・道徳以前の世界(空海の十住心体系における第一異生羝羊住心)である。
 次に、順世の八心段では倫理・道徳の世界(同じく第二愚童持斎住心)と宗数的自覚の世界(同じく第三嬰童無畏住心)を説く。さらに、六十心段では、人間の心の世界の種々相を詳細に分析して六十心を説いている。
 次に三妄執を示す三劫段からは出世間の心の種々相の世界が説かれる。ここには声聞と縁覚との心の世界(同じく第四唯蘊無我住心、第五抜業因種住心)、唯識と中観すなわち法祖宗と三論宗の教理(同じく第六他縁大乗住心、第七覚心不生住心)。さらに天台・華厳ついで真言(第八一道無為住心、第九極無自性住心、第十秘密荘厳住心)に対応する教理がのべられている。

 換言すると、のちに空海が十住心体系を確立した基礎が示されている。一方では真言密教の実践者の心の向上過程を説くとともに、他方では、あらゆる思想、哲学、宗教を世間と出世間とに分けて批判して、綜合仏教の形をとっている。

 次の六無畏段は、これまでの心の世界の展開を六つの段階にまとめている。浅い心からより深い心へ、すなわち畏れなき安らぎの心へと向かってゆくプロセスを分析している。
 最後に十縁生句段では、次の入曼荼羅真言具縁品以下で取りあつかう実修部門(事相)に入る準備として、十縁生句観という観想がのべられている。十縁生句とは条件によって生じたものの句という意味である。  善無畏の『大日経疏』には三種をあげる。

  1. 原因・条件によって生ずるものだからそれ自体空であると観想する即空観。
  2. あらゆる存在するものは心の現われであると観想する即心観。
  3. 心と存在するものとは一つでもなく異なったものでもないと観想し、なみの者の心のはたらきを離れる即不思議観。

 以上、入真言門柱心品は密教の主要な教義がほとんど説き尽されている。なお、その教理を貫いて根底にあるのは中観派で説くの哲学である。

主要部分

・真言門に入る住心の品(第一)

 かくの如く我れ聞けり。一時、薄伽梵は如来の加持する広大金剛法界宮に住したまへり。一切の時金剛者皆悉く集会せり。如来の信解遊戯神変より生ずる大楼閣宝王は、高くして中辺なし。もろもろの大妙宝王をもって種々に間飾し、菩薩の身をもって師子座とす。(中略)
 その時、執金剛秘密主は、彼の衆会の中において、坐して仏に白して言さく、世尊、云何が如来応供正遍知は、一切智智を得たまふ。
 彼れ一切智智を得て、無量の衆生のために、広演し分布したまふ。種々の趣、種々の性欲、種々の方便道に随って、一切智智を宣説したまふ云々。
 世尊よ。かくの如くの智慧(=一切智智)は、何をもってか因とし、云何が根とし、云何が究竟とするや、と。
 かくの如く説きをはって、毘廬遮那仏(大日如来)は持金剛秘密主に告げて言はく、
 善い哉、善い哉、執金剛よ。善い哉、金剛手よ、汝は吾れにかくの如き義を問へり。汝はまさに聴き、極めて善く作意すべし、吾れ、いまこれを説かん、金剛手の言く、かくの如し、世尊よ。願はくは聞かんと楽欲ふ、と。
 仏の言はく、菩提心を因とし、大悲を根とし、方便を究竟とす、と。
 秘密主よ、いかんが菩提とならば、いはく、実の如く自心を知るなり。

注釈書

  • 空海『大日経開題』一巻(数種あり)
  • 仝 『大日経疏文次第』一巻
  • 円珍『大日経指帰』一巻
  • 観賢『大疏妙』四巻
  • 淳祐『大日経指記』一巻
  • 実範『大経要義紗』七巻
  • 頼瑜『大日経開題愚草』一巻
  • 信堅『大疏縁起』一巻
  • 了賢『大日経開題ロ筆』二巻
  • 杲宝『大日経疏玄談』一巻
  • 道瑜『大日経縁起』一巻
  • 浄厳『住心品疏略解玄談』一巻
  • 法住『管絃相成義』二巻