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出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

(発音と文法)
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'''サンスクリット''' ('''Sanskrit''') は、'''サンスクリット語'''として知られる、古代・中世・インド亜大陸において公用語として用いられていた言語である。現在の[[インド]]の公用語の一つでもある。<br>
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=サンスクリット=
日本では一般には'''梵語'''として知られる。
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 ('''Sanskrit''') は、'''サンスクリット語'''として知られる、古代・中世・インド亜大陸において公用語として用いられていた言語である。現在の[[インド]]の公用語の一つでもある。<br>
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 日本では一般には'''梵語'''として知られる。
  
 
==言語としてのサンスクリット==
 
==言語としてのサンスクリット==
 
===歴史===
 
===歴史===
[[いんど・よーろっぱごぞく|インド・ヨーロッパ語族]](印欧語族)・[[いんど・いらんごぞく|インド・イラン(アーリア)語派]]に属し、狭義には[[紀元前5世紀]]~[[紀元前4世紀]]に[[パーニニ]]がその文法を規定し、その学統によって整備された古典サンスクリット(古典梵語)のことを指す。[[ぱーりご|パーリ語]]を元に作られた人工的な言語であるとされる。<br>
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 [[いんど・よーろっぱごぞく|インド・ヨーロッパ語族]](印欧語族)・[[いんど・いらんごぞく|インド・イラン(アーリア)語派]]に属し、狭義には[[紀元前5世紀]]~[[紀元前4世紀]]に[[パーニニ]]がその文法を規定し、その学統によって整備された古典サンスクリット(古典梵語)のことを指す。[[ぱーりご|パーリ語]]を元に作られた人工的な言語であるとの説もあるが、パーリ語のより古形が多いことから、この説は最近は言われない。<br>
広義には、[[リグ・ヴェーダ]](最古部は紀元前1500年頃)に用いられていた言葉にまで溯り、後の時代の、仏典などが記された仏教混交サンスクリットをも含む。<br>
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 広義には、[[リグ・ヴェーダ]](最古部は紀元前1500年頃)に用いられていた言葉にまで溯り、後の時代の、仏典などが記された仏教混交サンスクリットをも含む。<br>
そのように古典時代から広く使われて多くの文献を残しているため、サンスクリットは、ヨーロッパで古典学術用語として栄えた[[らてんご|ラテン語]]・[[ぎりしゃご|ギリシャ語]]とともに「三大古典印欧語」と称されることもある。
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 そのように古典時代から広く使われて多くの文献を残しているため、サンスクリットは、ヨーロッパで古典学術用語として栄えた[[らてんご|ラテン語]]・[[ぎりしゃご|ギリシャ語]]とともに「三大古典印欧語」と称されることもある。
  
[[しゃか|釈迦]]の時代など日常の生活においてインド各地の地方語('''プラークリット'''と呼ばれる。バーリ語など)が一般に用いられるようになって以降も、サンスクリットは逆に公用語として普及し、[[しゅうきょう|宗教]](例:[[ひんどぅーきょう|ヒンドゥー教]]・[[ぶっきょう|仏教]])・学術・[[ぶんがく|文学]]等の分野で幅広く長い期間に渡って用いられた。
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 [[しゃか|釈迦]]の時代など日常の生活においてインド各地の地方語('''プラークリット'''と呼ばれる。バーリ語など)が一般に用いられるようになって以降も、サンスクリットは逆に公用語として普及し、[[しゅうきょう|宗教]](例:[[ひんどぅーきょう|ヒンドゥー教]]・[[ぶっきょう|仏教]])・学術・[[ぶんがく|文学]]等の分野で幅広く長い期間に渡って用いられた。
  
 
'''サンスクリットを公用語としたことがわかっている王朝'''
 
'''サンスクリットを公用語としたことがわかっている王朝'''
*[[ぐぷたちょう|グプタ朝]] ([[4世紀]]~[[5世紀]])
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* [[ぐぷたちょう|グプタ朝]] (4~5世紀)
  
[[13世紀]]以降の[[いすらむおうちょう|イスラム王朝]]支配の時代~[[ひんどぅすたーにーご|ヒンドゥスターニー語]](→[[うるどぅーご|ウルドゥー語]]、[[ひんでぃーご|ヒンディー語]])の時代、[[だいえいていこく|大英帝国]]支配による英語の時代を経てその地位は相当に低下するが、実は今でも知識階級において習得する人も多く、学問や宗教の場で現代まで生き続けている。
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 [[13世紀]]以降の[[いすらむおうちょう|イスラム王朝]]支配の時代~[[ひんどぅすたーにーご|ヒンドゥスターニー語]](→[[うるどぅーご|ウルドゥー語]]、[[ひんでぃーご|ヒンディー語]])の時代、[[だいえいていこく|大英帝国]]支配による英語の時代を経てその地位は相当に低下するが、実は今でも知識階級において習得する人も多く、学問や宗教の場で現代まで生き続けている。
  
 
===発音と文法===
 
===発音と文法===
 
*母音
 
*母音
a, aa, i, ii, u, uu, r^i, r^i の長音、 l^i, e, ai, o, au の13個ある。(記号は標準的でない)
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a, ā, i, ī, u, ū, , の長音、 , e, ai, o, au の13個ある。
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:記号は標準的でなく、重なった母音は長音であり、RやLは独自の母音である。
 
*子音
 
*子音
 
以下のものがある。
 
以下のものがある。
 
             無声          有声                デーバナーガリー表記
 
             無声          有声                デーバナーガリー表記
 
           無気  帯気  無気  帯気  鼻音
 
           無気  帯気  無気  帯気  鼻音
  軟口蓋音  k    kh    g    gh    n?        &#x0915;    &#x0916;    &#x0917;    &#x0918;    &#x0919;
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  軟口蓋音  k    kh    g    gh    ń          &#x0915;    &#x0916;    &#x0917;    &#x0918;    &#x0919;
  硬口蓋音  c    ch    j    jh    n~        &#x091A;    &#x091B;    &#x091C;    &#x091D;    &#x091E;
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  硬口蓋音  c    ch    j    jh    ñ          &#x091A;    &#x091B;    &#x091C;    &#x091D;    &#x091E;
  反舌音    t.    t.h    d.    d.h    n.        &#x091F;    &#x0920;    &#x0921;    &#x0922;    &#x0923;
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  反舌音    ṭ    ṭh    ḍ    ḍh    ṇ          &#x091F;    &#x0920;    &#x0921;    &#x0922;    &#x0923;
 
  歯音      t    th    d    dh    n          &#x0924;    &#x0925;    &#x0926;    &#x0927;    &#x0928;
 
  歯音      t    th    d    dh    n          &#x0924;    &#x0925;    &#x0926;    &#x0927;    &#x0928;
 
  舌音      p    ph    b    bh    m          &#x092A;    &#x092B;    &#x092C;    &#x092D;    &#x092E;
 
  舌音      p    ph    b    bh    m          &#x092A;    &#x092B;    &#x092C;    &#x092D;    &#x092E;
  
 
  半母音  y    r    l    v                    &#x092F;    &#x0930;    &#x0931;    &#x0932;
 
  半母音  y    r    l    v                    &#x092F;    &#x0930;    &#x0931;    &#x0932;
  歯擦音  s'    s.    s                          &#x0936;    &#x0937;    &#x0938;
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  歯擦音  z    S    s                          &#x0936;    &#x0937;    &#x0938;
 
  気音    h                                      &#x0939;
 
  気音    h                                      &#x0939;
  
 
*文法
 
*文法
名詞は男性、女性、中性に分かれ、単数、両数(双数、dual)、複数の区別と格に応じて活用する。格は主格、呼格(よびかけ)、対格、具格(..によって)、為格(..の為に)、奪格(..から)、属格(..の、に属する)、処格(..で、において)の八つある。つまり、一つの名詞は24通りの活用を考えうる。<br>
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 名詞は男性、女性、中性に分かれ、単数、両数(双数、dual)、複数の区別と格に応じて活用する。格は主格、呼格(よびかけ)、対格、具格(..によって)、為格(..の為に)、奪格(..から)、属格(..の、に属する)、処格(..で、において)の八つある。つまり、一つの名詞は24通りの活用を考えうる。<br>
活用は規則的なものに限っても性・語幹の末尾によって多くの場合に分かれ、複雑である。
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 活用は規則的なものに限っても性・語幹の末尾によって多くの場合に分かれ、複雑である。
  
動詞の活用は、動詞の種類によって伝統的に10種に分けられている。注記すべきこととして、能動態と受動態の他に、反射態という、行為者自身のために行われることを表す態が存在する。また、アオリストも存在する。...
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 動詞の活用は、動詞の種類によって伝統的に10種に分けられている。注記すべきこととして、能動態と受動態の他に、反射態という、行為者自身のために行われることを表す態が存在する。また、アオリストも存在する。...
  
 
==著名な文学・哲学・宗教文献==
 
==著名な文学・哲学・宗教文献==
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==梵語 - 仏教での伝播、日本での一般認識==
 
==梵語 - 仏教での伝播、日本での一般認識==
  
仏教では最初、ヴェーダ文献の聖性を否定し、より民衆に近い水準の言葉で文献が書かれたため、サンスクリットが使われることはなかったが、大体紀元の前後を境にして徐々にサンスクリットが取り入れられ、仏教の各国への伝播とともに、サンスクリットも東アジアの多くの国々へ伝えられた。
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 仏教では最初、ヴェーダ文献の聖性を否定し、より民衆に近い水準の言葉で文献が書かれたため、サンスクリットが使われることはなかったが、大体紀元の前後を境にして徐々にサンスクリットが取り入れられ、仏教の各国への伝播とともに、サンスクリットも東アジアの多くの国々へ伝えられた。
  
サンスクリットの日本への伝来は非常に古く、すくなくとも[[しんごんしゅう|真言宗]]の開祖[[くうかい|空海]]まではさかのぼれる。日本におけるサンスクリットの文字は、一般的なデーヴァナーガリーとは多少異なる[[しったん||悉曇]]文字である。
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 サンスクリットの日本への伝来は非常に古く、すくなくとも[[しんごんしゅう|真言宗]]の開祖[[くうかい|空海]]まではさかのぼれる。日本におけるサンスクリットの文字は、一般的なデーヴァナーガリーとは多少異なる[[しったん|悉曇]]文字である。
  
日本語の五十音の配列は、サンスクリットの音韻学の影響を受けているという説が有力である。
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 日本語の五十音の配列は、サンスクリットの音韻学の影響を受けているという説が有力である。江戸期の[[じうん|慈雲]]によって梵語研究がすすんだことが知られており、それが元ではないかと推測する向きもあるが、現在と同じ配列のものが鎌倉時代ぐらいから見られる。<br> 五十音図に類したものは、平安時代の写本(『孔雀経音義』『金光明最勝王経音義』)にすでに記載があるが、配列のしかたが異なる。
  
仏典をサンスクリットのまま直接読唱することは[[だらに|陀羅尼]]と呼ばれ、現代日本のいくつかの文学作品に登場する(泉鏡花「高野聖」など)。<br>
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 仏典をサンスクリットのまま直接読唱することは[[だらに|陀羅尼]]と呼ばれ、現代日本のいくつかの文学作品に登場する(泉鏡花「高野聖」など)。<br>
日本語のうちで仏教用語に当たるものの多くはサンスクリット語源であり("僧"、"南無阿弥陀仏"、"卒塔婆"など無数にある)、"旦那"など多少日常語化したものもある。
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 日本語のうちで仏教用語に当たるものの多くはサンスクリット語源であり("僧"、"南無阿弥陀仏"、"卒塔婆"など無数にある)、"旦那"など多少日常語化したものもある。
  
 
==参考サイト==
 
==参考サイト==
 
アプテ サンスクリット辞典
 
アプテ サンスクリット辞典
 
: http://www3.aa.tufs.ac.jp/~tjun/sktdic/index.html
 
: http://www3.aa.tufs.ac.jp/~tjun/sktdic/index.html

2017年4月14日 (金) 21:04時点における版

サンスクリット

 (Sanskrit) は、サンスクリット語として知られる、古代・中世・インド亜大陸において公用語として用いられていた言語である。現在のインドの公用語の一つでもある。
 日本では一般には梵語として知られる。

言語としてのサンスクリット

歴史

 インド・ヨーロッパ語族(印欧語族)・インド・イラン(アーリア)語派に属し、狭義には紀元前5世紀紀元前4世紀パーニニがその文法を規定し、その学統によって整備された古典サンスクリット(古典梵語)のことを指す。パーリ語を元に作られた人工的な言語であるとの説もあるが、パーリ語のより古形が多いことから、この説は最近は言われない。
 広義には、リグ・ヴェーダ(最古部は紀元前1500年頃)に用いられていた言葉にまで溯り、後の時代の、仏典などが記された仏教混交サンスクリットをも含む。
 そのように古典時代から広く使われて多くの文献を残しているため、サンスクリットは、ヨーロッパで古典学術用語として栄えたラテン語ギリシャ語とともに「三大古典印欧語」と称されることもある。

 釈迦の時代など日常の生活においてインド各地の地方語(プラークリットと呼ばれる。バーリ語など)が一般に用いられるようになって以降も、サンスクリットは逆に公用語として普及し、宗教(例:ヒンドゥー教仏教)・学術・文学等の分野で幅広く長い期間に渡って用いられた。

サンスクリットを公用語としたことがわかっている王朝

 13世紀以降のイスラム王朝支配の時代~ヒンドゥスターニー語(→ウルドゥー語ヒンディー語)の時代、大英帝国支配による英語の時代を経てその地位は相当に低下するが、実は今でも知識階級において習得する人も多く、学問や宗教の場で現代まで生き続けている。

発音と文法

  • 母音

a, ā, i, ī, u, ū, ṛ, ṝ の長音、 ḷ, e, ai, o, au の13個ある。

記号は標準的でなく、重なった母音は長音であり、RやLは独自の母音である。
  • 子音

以下のものがある。

            無声           有声                デーバナーガリー表記
         無気  帯気  無気   帯気   鼻音
軟口蓋音  k     kh     g     gh     ń          क     ख     ग     घ     ङ
硬口蓋音  c     ch     j     jh     ñ          च     छ     ज     झ     ञ
反舌音    ṭ     ṭh     ḍ     ḍh     ṇ          ट     ठ     ड     ढ     ण
歯音      t     th     d     dh     n          त     थ     द     ध     न
舌音      p     ph     b     bh     m          प     फ     ब     भ     म
半母音  y     r     l     v                    य     र     ऱ     ल
歯擦音  z     S     s                          श     ष     स
気音    h                                      ह
  • 文法

 名詞は男性、女性、中性に分かれ、単数、両数(双数、dual)、複数の区別と格に応じて活用する。格は主格、呼格(よびかけ)、対格、具格(..によって)、為格(..の為に)、奪格(..から)、属格(..の、に属する)、処格(..で、において)の八つある。つまり、一つの名詞は24通りの活用を考えうる。
 活用は規則的なものに限っても性・語幹の末尾によって多くの場合に分かれ、複雑である。

 動詞の活用は、動詞の種類によって伝統的に10種に分けられている。注記すべきこととして、能動態と受動態の他に、反射態という、行為者自身のために行われることを表す態が存在する。また、アオリストも存在する。...

著名な文学・哲学・宗教文献

梵語 - 仏教での伝播、日本での一般認識

 仏教では最初、ヴェーダ文献の聖性を否定し、より民衆に近い水準の言葉で文献が書かれたため、サンスクリットが使われることはなかったが、大体紀元の前後を境にして徐々にサンスクリットが取り入れられ、仏教の各国への伝播とともに、サンスクリットも東アジアの多くの国々へ伝えられた。

 サンスクリットの日本への伝来は非常に古く、すくなくとも真言宗の開祖空海まではさかのぼれる。日本におけるサンスクリットの文字は、一般的なデーヴァナーガリーとは多少異なる悉曇文字である。

 日本語の五十音の配列は、サンスクリットの音韻学の影響を受けているという説が有力である。江戸期の慈雲によって梵語研究がすすんだことが知られており、それが元ではないかと推測する向きもあるが、現在と同じ配列のものが鎌倉時代ぐらいから見られる。
 五十音図に類したものは、平安時代の写本(『孔雀経音義』『金光明最勝王経音義』)にすでに記載があるが、配列のしかたが異なる。

 仏典をサンスクリットのまま直接読唱することは陀羅尼と呼ばれ、現代日本のいくつかの文学作品に登場する(泉鏡花「高野聖」など)。
 日本語のうちで仏教用語に当たるものの多くはサンスクリット語源であり("僧"、"南無阿弥陀仏"、"卒塔婆"など無数にある)、"旦那"など多少日常語化したものもある。

参考サイト

アプテ サンスクリット辞典

http://www3.aa.tufs.ac.jp/~tjun/sktdic/index.html