いはい
出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』
位牌
霊牌〈れいはい〉ともいわれる。死者の霊を祭るために法名を書いて、それを死者になぞらえて、仏壇や位牌堂に安置する牌をいう。
今日では一般に位牌といえば、仏教の用いるものと考えられているが、元来は仏教のものでなく、中国の儒教で用いられた木主〈もくしゅ〉神主〈しんしゅ〉木牌〈もくはい〉などが、禅宗の渡来と共に、わが国の仏教徒に用いられることとなったのであり、江戸時代に一般化されたようである。
位牌とは、位は「くらい」であり牌は「ふだ」のことである。そこで、死者の姓名や生前の位階を記した札を位牌というのである。多く、その木は栗が用いられたようである。そこで『和漢三才図会』には
霊牌、釈氏の戒名を書き、仏がんの傍に安ずるもの、俗にこれを位牌という。儒門の神主と同義なり
といい、また『倭訓栞』では
位牌の字、朱子語録に見えたり、天竺の制法にもなく、神主の古式にもあらず。今いうところの位牌の形は、宮殿または祠の体を模せしものにて神道の霊璽と号するものなり
といっている。
すなわち、元来は中国からきたものであって、仏教のおこったインドでは、そのようなものはないといい、また、日本でいえば、霊代〈たましろ〉であり、神牌であるというのである。しかし、この位牌が霊になぞらえられて霊のある場所を示すと考えられたことは、神牌が神の位牌の意味であるといわれることにしられる。
今日、「霊位」と書かれるのは、この考えによるものである。
これが仏教において用いられる場合、死者の没時には多く白木のものが用いられ、後に黒塗や朱塗や金箔塗などが用いられる。表面には法名や戒名や没年月日が記される。裏面には俗名や年令を書く例が多い。
その形については、いろいろであるが、多く台座に蓮華の花を模し、屋根は宮殿を模してつくられたものが多い。なお、法名の上には「円寂」「帰真」「帰元」などの語がおかれ、また密教系では仏の種子を悉曇(梵字)で書き、死者が仏に救われたことをあらわしている。
浄土真宗では、元来、このような位牌を用いることはなかった。ただ、紙牌に法名を書くのみであった。ところが、今日では、多く他の宗派と同じように位牌を用いている。
『考信録』によれば
位牌を安ずるもの本尊の正面に置くは非なり。ただ法名忌日を記する標までとして、これを傍におくはあえて不可なからん
とあるから、江戸時代の末期には、このように位牌をまつる風が真宗にも行なわれ出していたと思われる。