アヒンサー
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アヒンサー
ahiṃsā (S)(aは否定の意、hiṃsāは傷害の意)。
不殺生・不傷害の意で、あらゆる生物を傷つけたり殺したりしないこと。インドの宗教・倫理道徳の基調をなす思想。アヒンサーの思想は、古くウパニシャッド(『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』3,17など)の時代から、インドの諸宗教に共通する著しい特色である。
仏教では、原始仏教の根本教義である八正道の第四の正業とはアヒンサーなどであると説かれ、また五戒の第一は不殺生戒である。八斎戒、沙弥・沙弥尼戒の十戒、修行僧・修行尼の波綴提木叉(prātimokṣa (S); pāṭimokkha (P))にも厳格な規
定がある。
アショーカ王の詔勅にも掲げられ、大乗仏教経典においても、『梵網経』『大智度論』など、枚挙にいとまがない。シナ・日本の仏教もこの影響を強く受けて、放生会は儀式化されたその象徴であるといえる。万物に霊魂があると説くジャィナ教は極端な不殺生戒を説き、大誓戒の第一に不殺生を置く。ヒンズー教は輪廻転生・霊魂不滅の教理から、万物の生命の一体観をもち、いかなる生物をも傷害しないという理想を掲げた。