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やまてん

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

夜摩天

 Yama ヤマ神の名はすでに『リグ・ヴェーダ』にみられ、その起源は少なくともインド・イラン時代にさかのぼるものであり、『アヴェスター』でこれに相当する神はイマと呼ばれる。ヴェーダ時代最初期にはヤマはさほど重要な神ではなかったと考えられるが、『リグ・ヴェーダ』第10巻や『アタルヴァ・ヴェーダ』さらに他のサンヒター類、ブラーフマナ文献では、しばしば言及され、しだいにヴェーダ諸神のあいだで一種独特の地位を占めるようになっていった。『リグ・ヴェーダ』第10巻におさめられているヤマとその妹ヤミーとの問答体の詩篇は特に名高い。
 ヤマは通常冥界の主とみなされるが、その性格、背景は複雑にして謎に満ち、たやすくは捉えがたいものがあり、かつ時代の推移とともに異なった相貌を示している。『リグ・ヴェーダ』では、太陽神ヴィヴァスヴァットの子たるヤマが最初の死者として黄泉の国におもむき、そのまま祖霊たちの主として冥界に君臨したという神話が語られている。ヴェーダ時代にはヤマは二匹の犬を従える死者の神として忌み恐れられる一方、また人びとを死より護る恵み深い神としても讃仰され、ヤマ世界は一種の楽土と考えられた。バラモン少年ナチケータスが冥府に下り、ヤマと哲学問答をするという有名な『カタ・ウパニシャッド』の物語の祖型とみなしうるものは、すでに、『リグ・ヴェーダ』に見出される。時代が下るにつれヤマは死神そのものと考えられるようになり、それぞれ死を意味するムリトュ、アンタカ、カーラなどの別名をもつにいたる。また、ヤマがダルマないしダノレマラージャと呼ばれ、最高のの執行者、正義の監視者ともみなされたことは、この神本来の性格を考えるうえで示唆に富む。
 輪廻転生説がインド人の心に深く根を下すにつれ、ヤマは冥界の主というよりは、むしろ獄卒を従えて罪ある死者を罰する地獄の王となっていった。まさに死にゆかんとするものの枕辺にヤマ神の使者が現われ、地獄に連れさっていくありさまは、叙事詩、プラーナのところどころに描かれている。仏典のなかでも、たとえば『マッジマ・ニカーヤ』の「デーヴァドゥータ・スッタ」すなわち『中阿含経』の「天使経」では、ほかならぬこの地獄の使者について詳説されている。仏典では、ヤマすなわち夜摩天、焔摩王は、多くの場合、地獄の王、獄卒の主として登場するが、ヴェーダ、叙事詩のヤマ神の名残りをもとどめており、またヤマがマーラ、カーマと同一視された痕跡もあるという。

 夜摩天の尊像は、日本の密教画のなかにも見出しえ、そこではこの神は白牛にまたがっている。夜摩天は、日本では、民間において閻魔大王として親しまれているが、これは主として『十王経』の所説によるもので、中国の道教信仰との混渚のあといちじるしく、その形像もほとんどまったく中国風である。