「りくがっしゃく」の版間の差分
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==① 持業釈== | ==① 持業釈== | ||
− | 「karma- | + | 「karma-dhāraya」の訳で、「同依釈」ともいう。<br> |
同格限定複合語のことで、前節の語が後節の語に対して形容詞、副詞または同格の名詞としての関係を有するもの。よって、後節の語は常に名詞または形容詞である。<br> | 同格限定複合語のことで、前節の語が後節の語に対して形容詞、副詞または同格の名詞としての関係を有するもの。よって、後節の語は常に名詞または形容詞である。<br> | ||
たとえば「高山」が「高い山」を意味し、「極遠」が「極めて遠い」を意味するようなものである。 | たとえば「高山」が「高い山」を意味し、「極遠」が「極めて遠い」を意味するようなものである。 | ||
==② 依主釈== | ==② 依主釈== | ||
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格限定複合語。複合語中の前節の語は名詞または名詞と同様に見なされるべきもので、これが後節の名詞または形容詞に対して、常に格の関係を有するもの。<br> | 格限定複合語。複合語中の前節の語は名詞または名詞と同様に見なされるべきもので、これが後節の名詞または形容詞に対して、常に格の関係を有するもの。<br> | ||
「山寺」が「山にある寺」を意味し、「王臣」が「王の臣」を意味するなど。「山寺」の例は、於格・処格の例で、「王臣」は属格・所有格の例である。<br> | 「山寺」が「山にある寺」を意味し、「王臣」が「王の臣」を意味するなど。「山寺」の例は、於格・処格の例で、「王臣」は属格・所有格の例である。<br> | ||
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==③ 有財釈== | ==③ 有財釈== | ||
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所有複合語。複合語の全体が所有の意味をあらわす形容詞の働きをしている場合で、6つの複合語すべて有財釈とも解釈できる。<br> | 所有複合語。複合語の全体が所有の意味をあらわす形容詞の働きをしている場合で、6つの複合語すべて有財釈とも解釈できる。<br> | ||
例えば、「長袖」という持業釈は、「長袖である」「長袖を有する〔者〕」を意味するようなものである。 | 例えば、「長袖」という持業釈は、「長袖である」「長袖を有する〔者〕」を意味するようなものである。 | ||
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しかし、中国に伝わる伝統的解釈では、「[[しねんじょ|四念処]]」は「慧」を体とするが、念に近いから念処と称するように、実際はそのものではないのに、近いものに従って名を立てた場合を、隣近釈としているので、注意が必要である。 | しかし、中国に伝わる伝統的解釈では、「[[しねんじょ|四念処]]」は「慧」を体とするが、念に近いから念処と称するように、実際はそのものではないのに、近いものに従って名を立てた場合を、隣近釈としているので、注意が必要である。 |
2022年10月9日 (日) 14:15時点における版
六合釈
şaț-samāsa (S), 「殺三磨娑」と音写。「六離合釈」とも訳す。「ろくがっしゃく」と読むこともある。
サンスクリット語の複合語を解釈する、① 持業釈、② 依主釈、③ 有財釈、④ 相違釈、⑤ 隣近釈、⑥ 帯数釈の六種の方法。
① 持業釈
「karma-dhāraya」の訳で、「同依釈」ともいう。
同格限定複合語のことで、前節の語が後節の語に対して形容詞、副詞または同格の名詞としての関係を有するもの。よって、後節の語は常に名詞または形容詞である。
たとえば「高山」が「高い山」を意味し、「極遠」が「極めて遠い」を意味するようなものである。
② 依主釈
「tat-puruṣa」の訳で、依士釈(えじしゃく)、属主釈、即士釈とも訳される。
格限定複合語。複合語中の前節の語は名詞または名詞と同様に見なされるべきもので、これが後節の名詞または形容詞に対して、常に格の関係を有するもの。
「山寺」が「山にある寺」を意味し、「王臣」が「王の臣」を意味するなど。「山寺」の例は、於格・処格の例で、「王臣」は属格・所有格の例である。
これは狭義の依主釈であり、広義に言えば、① 持業釈、④ 帯数釈も前節の語によって後節の語の意味を制限あるいは修飾する複合語であるから、依主釈と言ってよい。
③ 有財釈
「bahu-vrīhi」の訳で、多財釈とも訳す。
所有複合語。複合語の全体が所有の意味をあらわす形容詞の働きをしている場合で、6つの複合語すべて有財釈とも解釈できる。
例えば、「長袖」という持業釈は、「長袖である」「長袖を有する〔者〕」を意味するようなものである。
④ 相違釈
「dvandva」の訳。
並列複合語。2個以上の名詞を対等の関係において独立的に列挙するもの。
「山川草木」が「山と川と草と木」を意味するようなものである。
⑤ 隣近釈
「avyayī-bhāva」の訳とするなら、副詞的複合語である。前節の語は常に副詞・関係詞などの不変化詞で、複合語全体として副詞の機能を持つ。
たとえば、「yathā(如く)-vidhi(法)」が、「法の如くに」「法に従って」を意味するなどである。
しかし、中国に伝わる伝統的解釈では、「四念処」は「慧」を体とするが、念に近いから念処と称するように、実際はそのものではないのに、近いものに従って名を立てた場合を、隣近釈としているので、注意が必要である。
⑥ 帯数釈
「dvigu」の訳。
数詞限定複合語。前節の語が数詞であって聚合の意味を有するもの。
「三界」「四方」という場合。
名詞的複合語
① 持業釈、② 依主釈、④ 相違釈、⑥ 帯数釈の4つは、名詞的複合語の解釈法である。
注意
現在のサンスクリット文法では、
- ② 依主釈
- ④ 相違釈
- ① 持業釈
- ⑥ 帯数釈
- ⑤ 隣近釈
- ③ 有財釈
の順に解釈するのが通例である。