相違識相智
ただ識しか存在せず外界にはものは存在しないという唯識無境の理をさとるための4つの智の一つ。同一の事物に対してそれを認識する者が相違すれば、その事物は違った相(すがた)をもつものとして認識されると智ること。
たとえば、水に対して、餓鬼は膿や血の充満した河、魚などの傍生は住居や道路、天は宝石で荘厳された地、人間は清らかな水あるいは波浪、としてそれぞれ認識することをいう。もしも外界に事物が実在するならば、このような認識の相違はありえないから、外界には事物は実在しない、すなわち、唯識無境であると結論する。
- 成就四智、菩薩能随悟入唯識無境。一相違識相智、謂、於一処、鬼人天等、随業差別、所見各異。境若実有、此云何成。〔『成論』7、T31-39a〕