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えじようろん

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

廻諍論

1巻、vigrahavyaavartanii、質疑の論破
著者:龍樹(Nagarjuna、150-250)
チベッ卜訳:東北目録 95, pp 14-15, 57-64
漢訳:後魏毘目智仙瞿曇流支と541年鄴都金華寺にて訳出(T32, pp 13-23)

 龍樹造の5部論の第4に数えられている。本論は72の偈と、各偈に対する著者自身の註釈とから構成され、内容は反対論者の質疑とそれに対する論破とに2分される。前者では、一切無自性(=縁起)なる大乗教学の根本命題に対する反対論者からの論難を掲げ、後者では、それらいちいちの論難に対して龍樹が論破して、無自性・空の学説を宣揚する。
 これは10種の論からなるが、主なものは、

  • 無自性の言語表現に関するもの
  • 無自性の認識根拠に関するもの
  • 自性(=実体)の成立不成立

に関するものである。
 反対論者の主張は正理学派のものであり、正理学派と龍樹との間における論争の事実は、龍樹5部論の第5にあげられる『広破論(vaidalya)』にも示されている。
 本書と『広破論』との間には『廻諍論』第4,5の2偈によって提起された正理学派の説く (pramaaNa, 認識根拠)の問題が、『広破論』において詳しく論じられている、という関係がある。

参考文献

 山口益は本書のチベット訳にもとづき、漢訳を参照して、仏訳と研究を発表した

  • S.Yamaguchi“Traité de Naagaarjuna, pour écarter les vaines discussions”[vigrahavyaavartanii], traduit et annoté, JA 1929, pp 1-86)

 トゥッチもまたチベット訳と漢訳から英訳した。

  • G.Tucci“Pre-dinnaaga Buddhist Text on Logic from Chinese Sources”GOS XLIX, 1929

 1936年7月サンクリトヤーヤナはチベットのシャル Sha-luの僧院にて、チベット字体の写本を発見し、翌年これを公表した

  • K.P.Jayaswal & raahula saankRtyaayana“vigrahavyaavarttanii by aachaarya naagaarjuna with the Author's Commentary”JBORS 23, pt 3 App, 1937

 山口益はこの梵本とチベット訳とによって邦訳を出した。

  • 山口益『梵本西蔵本に依る国訳廻評論』〔プリント版〕、昭和19年)

さらに本書の註釈的研究をも公表した。

  • 山口益『廻諍論について』密教文化7、昭和24年、
  • 山口益『廻諍論の註釈的研究〉同、8-10・12、昭和25年

 1951年梵文の改訂テクストが刊行された。

  • E.H,Johnston & A.Kunst“The vigrahavyaavartanii of naagaarjuna with the Author's Commentary”Mélanges Chinois et Bouddhiques Nr. 9

 現在これが定本として用いられている。

  • 山崎次彦〈大乗思想成立の場に於ける論理の問題〉、『大乗仏教の成立史的研究』pp. 135-68

 大乗仏教成立当時における勝論学派正理学派説一切有部なとの諸学派の所説との対比より、本書の持つ意義や問題点も論じられた。

国訳

  • 池田澄達、遠藤二平共訳(国一 論集部2)