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ぶっしょうろん

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

仏性論

4巻、天親菩薩(Vasubandhu、世親、4世紀)造、真諦(Paramārtha)訳(6世紀、陳代)

内容

 仏性すなわち如来蔵を体系的に説明する大乗の論書で、縁起分、破執分(3品)、顕体分(3品)、弁相分(10品)から成り、縁起分では一切衆生悉有仏性と説く意義・目的を明らかにし、破執分で小乗の無仏性説、外教諸派の(アートマン)説、大乗仏教中での無に対する執着を論破して、二諦ともに非有非無であるとした後、顕体分で仏性の本質を三因(応得、加行、円満)、三種性(住自性、引出、至得)によって規定し、三性・五法・三無性との関係に及び、さらに如来蔵の三義(所摂・隠覆・能摂)を論ずる。最後に弁相分は仏性の特相を如来蔵の10の観点(自体、因、果、事能、総摂、分別、階位、遍満、無変異、無差別の十相、十品)から説明する。このうち、総摂品では、如来蔵の果位としての転依、法身・涅槃について詳説して、仏性が人法二空所顕の真如であることを明らかにし、また、無変異の項では前後・染浄などの6面で仏性が不変であることを論じ、とくに前後無変異を因位における如来蔵と果位における法身の同一性として説明し、如来蔵が煩悩におおわれている状態、法身とその顕現態としての仏の三身(法身、応身、化身)に言及している。

評価

 仏性問題は大乗仏教、ことに中国・日本の仏教において重大な関心の払われた課題であるが、本書は、唯識説の無仏性を認める説に対立して一切衆生悉有仏性を主張する代表的典籍として中国・日本で重視された。数種の註釈が作られたが現存するのは日本の賢洲作『仏性論節義』4巻だけてある。なお、訳者真諦はみずから『仏性義』3巻を作って本書に註釈したといわれているが、これも散佚しており、本書中「釈曰」とある個所がその断片ではないかと推定されている。しかし、本書の論述のうち、縁起分ならびに如来蔵説に関する部分はほとんど『宝性論』と同一で、単に配列の変更や註釈的部分の附加がみられるにすぎない。本書の著者が基本的に唯識説に立っていることは、顕体分で仏性を三性五法説と関連させて説明している点、破執分の説明に『瑜伽師地論』と一致する部分の多い点から認められるが、一方、本書の引用する『無上依経』(真諦訳、T16,pp.468-480)は構成・内容上かなりの部分が『宝性論』と一致し、しかも『宝性論』はこれら2書に何も言及していないので、両方とも『宝性論』にもとづいて作られたものと考えられ、また、本書に原典・チベット訳の存在しないことと相侯って、本書の著者と成立年代に関して、現在かなりの疑念が抱かれている。

テキスト

研究・翻訳

  • 坂本幸男国訳(国一 瑜伽部9)
  • 月輪賢隆『究竟一乗宝性論について』日仏年報7、昭11
  • 宇井伯寿『宝性論研究』第4章第2
  • 服部正明『仏性論の一考察』仏教史学 4-3・4、昭30

参考

  • 常盤大定『仏性の研究』昭5