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やっきょうしくぶん

出典: フリー仏教百科事典『ウィキダルマ(WikiDharma)』

訳経史区分

 中国の訳経史では、新旧に特定の時代区分を設けて用いている。玄奘(げんじょう)以後の訳経を新訳と呼び、それ以前の訳経を旧訳と呼ぶ。これは、玄奘が新旧の区別を強調し、「旧訳は訛謬(かびゅう)」と断じたからである。

 例えばsamādhiは「三昧(さんまい)」、yojanaは「由旬(ゆじゅん)」、sattvaは「衆生」と訳すのがほぼ定まった訳語であったが、玄奘はこれを改め、それぞれに「三摩地(さんまじ)」「踰闍那(ゆじゃな)」「有情(うじょう)」という新訳語を当てた。たしかに新訳語の方がサンスクリット語の発音や原意に忠実である。
 しかし旧訳を誤りであるとか不完全であるとして排斥するのは早計である。初期の漢訳経典の多くはプラークリット(俗語)や西域の諸語から訳出されたからである。旧訳を代表するのは鳩摩羅什(くまらじゅう)と真諦(しんだい)である。とくに羅什の訳語・文体はそれ以前の訳とはっきり区別できるすぐれた特色をもっている。

 維摩経妙法蓮華経金剛般若経などはいくつかの訳があるが、羅什訳がもっとも名訳とされることが一般的であり、名文の誉れが高い。

 なお、訳経史上では、羅什以前の訳を古訳と言って旧訳から区別することがある。僧祐が『出三蔵記集 』の中で西晋以前の訳語と羅什以後の訳語の相違に注目しており、それにほぼ対応する。例えばbodhisattva(菩薩)の古訳語は「扶薩(ふさつ)」または「開士(かいじ)」である。古訳時代の代表的訳者は支謙竺法護(じくほうご)である。