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 [[ゆいしき|唯識]]派の所依の経典の一つで、「唯識」思想を初めて説いたといわれる経典である。A.D.300年前後の成立とされる。
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[[ゆいしきは|唯識派]]もしくは、中国・日本の[[ほっそうしゅう|法相宗]]の所依の経典の一つで、[[ゆいしき|唯識]]思想を初めて説いたといわれる経典である。<br>
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また、序品を除いて、ほとんどが『[[ゆがしじろん|瑜伽師地論]]』第75-78巻に引用され、さらに『[[しょうだいじょうろん|摂大乗論]]』『[[じょうゆいしきろん|成唯識論]]』などに引用されて、後世への影響が大きい。
  
内容は、<br>
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===書誌===
1)仏教の歴史を[[|]][[くう|]][[ちゅう|]]の三時に分けて、唯識は第三時の中道に相当すると説き、<br>
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サンスクリット本は現存せず、[[げんじょう|玄奘]]訳の五巻本とチベット訳の『dgoGgs-pa Ges-par-Hgrol-pa』とが伝わっている。<br>
2)六識の奥に深層心理を考察する立場から[[あらやしき|阿頼耶識]]の存在を、<br>
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漢訳では、全文訳されたものとして、北魏の[[ぼだいるし|菩提流支]]が訳した『[[じんみつげだつきょう|深密解脱経]]』五巻と、唐の玄奘訳とがある。部分訳としては、宋の[[ぐなばっだら|求那跋陀羅]]の『相続解脱経』二巻と、陳の[[しんだい|真諦]]訳の『仏説解節経』一巻とがあり、『大正新脩大蔵経』の16巻に収められている。<br>
3)存在を三つの形態に分ける三自性・三無自性説を、<br>
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チベット訳に関しては、全文訳されたものが、北京版29巻に収められており、フランスのLamtteによって出版され、フランス語訳されている。<br>
4)一切はただ心の現れにすぎないという「唯識」の考えを<br>
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邦語訳は、『国訳大蔵経』経部巻10と、『国訳一切経』経集部巻3に収められている。
初めて宣揚した。
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:'''解深密経''' 5巻 唐・玄奘訳 大正大蔵経 No.676 第16巻 p.711
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===成立年代===
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解深密経は、[[りゅうじゅ|龍樹]]以後間もない頃、西暦3百年前後と推定されており、中期[[だいじょうきょうてん|大乗経典]]に属している。
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===内容===
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解深密経は、八品で構成されている。
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# 序品    仏が十八円満の受用土において、二十一種功徳成就の受用身を現じ、無量の大[[しょうもん|声聞]]衆と大[[ぼさつ|菩薩]]衆が集会している情景を述べる
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# 勝義諦相品 勝義諦[[しんにょ|真如]]は名言の相を離れ、有無の二相を離れ、尋思の所行を超え、諸法の一異相を離れ、一切に遍じ一味の相であると説く
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# 心意識相品 [[あだなしき|阿陀那識]]、[[あらやしき|阿頼耶識]]、一切種子心識、心を説き、それと[[ろくしき|六識]]の倶転を明らかにする
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# 一切法相品 [[へんげしょしゅうしょう|遍計所執性]]、[[えたきしょう|依他起性]]、[[えんじょうじっしょう|円成実性]]の[[さんしょう|三性]]を説く
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# 無自性品  相無性、生無性、勝義無性の[[さんむしょう|三無性]]を説き、有・空・中の三時教判を説く
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# 分別瑜伽品 止観行を詳説して、識の所縁は唯識の所現であると説く
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# 地波羅蜜多品 十地および十波羅蜜多行を説く
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# 如来成所作事品 如来法身の相および化身の作業を説いている。
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===注釈書===
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解深密経は、中国でも広く研究され、令因の疏十一巻、[[えんじき|円測]]の疏十巻、玄範の疏十巻、[[がんぎょう|元暁]]の疏三巻などがあったが、現存して用いられているのは、円測の疏だけである。ただ、この円測の疏は第十巻を欠いているが、そのチベット訳が存在しており、それによって補うことができる。<br>
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チベットの注釈書に関しては、芳村修基によれば、五種あったとされるが、現在は[[むじゃく|無著]]の疏、智蔵の疏、覚通の疏の三種が北京版に残っている。

2020年5月7日 (木) 09:04時点における最新版

解深密経

saMdhi-nirmocana-suutra(skt.)

唯識派もしくは、中国・日本の法相宗の所依の経典の一つで、唯識思想を初めて説いたといわれる経典である。
また、序品を除いて、ほとんどが『瑜伽師地論』第75-78巻に引用され、さらに『摂大乗論』『成唯識論』などに引用されて、後世への影響が大きい。

書誌

サンスクリット本は現存せず、玄奘訳の五巻本とチベット訳の『dgoGgs-pa Ges-par-Hgrol-pa』とが伝わっている。
漢訳では、全文訳されたものとして、北魏の菩提流支が訳した『深密解脱経』五巻と、唐の玄奘訳とがある。部分訳としては、宋の求那跋陀羅の『相続解脱経』二巻と、陳の真諦訳の『仏説解節経』一巻とがあり、『大正新脩大蔵経』の16巻に収められている。
チベット訳に関しては、全文訳されたものが、北京版29巻に収められており、フランスのLamtteによって出版され、フランス語訳されている。
邦語訳は、『国訳大蔵経』経部巻10と、『国訳一切経』経集部巻3に収められている。

成立年代

解深密経は、龍樹以後間もない頃、西暦3百年前後と推定されており、中期大乗経典に属している。

内容

解深密経は、八品で構成されている。

  1. 序品    仏が十八円満の受用土において、二十一種功徳成就の受用身を現じ、無量の大声聞衆と大菩薩衆が集会している情景を述べる
  2. 勝義諦相品 勝義諦真如は名言の相を離れ、有無の二相を離れ、尋思の所行を超え、諸法の一異相を離れ、一切に遍じ一味の相であると説く
  3. 心意識相品 阿陀那識阿頼耶識、一切種子心識、心を説き、それと六識の倶転を明らかにする
  4. 一切法相品 遍計所執性依他起性円成実性三性を説く
  5. 無自性品  相無性、生無性、勝義無性の三無性を説き、有・空・中の三時教判を説く
  6. 分別瑜伽品 止観行を詳説して、識の所縁は唯識の所現であると説く
  7. 地波羅蜜多品 十地および十波羅蜜多行を説く
  8. 如来成所作事品 如来法身の相および化身の作業を説いている。

注釈書

解深密経は、中国でも広く研究され、令因の疏十一巻、円測の疏十巻、玄範の疏十巻、元暁の疏三巻などがあったが、現存して用いられているのは、円測の疏だけである。ただ、この円測の疏は第十巻を欠いているが、そのチベット訳が存在しており、それによって補うことができる。
チベットの注釈書に関しては、芳村修基によれば、五種あったとされるが、現在は無著の疏、智蔵の疏、覚通の疏の三種が北京版に残っている。