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+ | 解深密経は、中国でも広く研究され、令因の疏十一巻、[[えんじき|円測]]の疏十巻、玄範の疏十巻、[[がんぎょう|元暁]]の疏三巻などがあったが、現存して用いられているのは、円測の疏だけである。ただ、この円測の疏は第十巻を欠いているが、そのチベット訳が存在しており、それによって補うことができる。<br> | ||
+ | チベットの注釈書に関しては、芳村修基によれば、五種あったとされるが、現在は[[むじゃく|無著]]の疏、智蔵の疏、覚通の疏の三種が北京版に残っている。 |
2020年5月7日 (木) 09:04時点における最新版
解深密経
saMdhi-nirmocana-suutra(skt.)
唯識派もしくは、中国・日本の法相宗の所依の経典の一つで、唯識思想を初めて説いたといわれる経典である。
また、序品を除いて、ほとんどが『瑜伽師地論』第75-78巻に引用され、さらに『摂大乗論』『成唯識論』などに引用されて、後世への影響が大きい。
書誌
サンスクリット本は現存せず、玄奘訳の五巻本とチベット訳の『dgoGgs-pa Ges-par-Hgrol-pa』とが伝わっている。
漢訳では、全文訳されたものとして、北魏の菩提流支が訳した『深密解脱経』五巻と、唐の玄奘訳とがある。部分訳としては、宋の求那跋陀羅の『相続解脱経』二巻と、陳の真諦訳の『仏説解節経』一巻とがあり、『大正新脩大蔵経』の16巻に収められている。
チベット訳に関しては、全文訳されたものが、北京版29巻に収められており、フランスのLamtteによって出版され、フランス語訳されている。
邦語訳は、『国訳大蔵経』経部巻10と、『国訳一切経』経集部巻3に収められている。
成立年代
解深密経は、龍樹以後間もない頃、西暦3百年前後と推定されており、中期大乗経典に属している。
内容
解深密経は、八品で構成されている。
- 序品 仏が十八円満の受用土において、二十一種功徳成就の受用身を現じ、無量の大声聞衆と大菩薩衆が集会している情景を述べる
- 勝義諦相品 勝義諦真如は名言の相を離れ、有無の二相を離れ、尋思の所行を超え、諸法の一異相を離れ、一切に遍じ一味の相であると説く
- 心意識相品 阿陀那識、阿頼耶識、一切種子心識、心を説き、それと六識の倶転を明らかにする
- 一切法相品 遍計所執性、依他起性、円成実性の三性を説く
- 無自性品 相無性、生無性、勝義無性の三無性を説き、有・空・中の三時教判を説く
- 分別瑜伽品 止観行を詳説して、識の所縁は唯識の所現であると説く
- 地波羅蜜多品 十地および十波羅蜜多行を説く
- 如来成所作事品 如来法身の相および化身の作業を説いている。
注釈書
解深密経は、中国でも広く研究され、令因の疏十一巻、円測の疏十巻、玄範の疏十巻、元暁の疏三巻などがあったが、現存して用いられているのは、円測の疏だけである。ただ、この円測の疏は第十巻を欠いているが、そのチベット訳が存在しており、それによって補うことができる。
チベットの注釈書に関しては、芳村修基によれば、五種あったとされるが、現在は無著の疏、智蔵の疏、覚通の疏の三種が北京版に残っている。