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原語は、内心に潜む悪に傾こうとする力を意味し、広くは[[ぼんのう|煩悩]]一般を表すことばである。<br> | 原語は、内心に潜む悪に傾こうとする力を意味し、広くは[[ぼんのう|煩悩]]一般を表すことばである。<br> | ||
煩悩の異名としての随眠。煩悩は[[うじょう|有情]](生きもの)に随逐する(随って働く)から随といい、その行相(働きのありよう)は微細にして知り難いこと、睡眠中の如くであるから眠という。『倶舎論』では随眠の原語anuśayaを微細・随増・随逐・随縛の4つの意味に分析して語源的に解釈している〔『倶舎』20、T29-108a〕。<br> | 煩悩の異名としての随眠。煩悩は[[うじょう|有情]](生きもの)に随逐する(随って働く)から随といい、その行相(働きのありよう)は微細にして知り難いこと、睡眠中の如くであるから眠という。『倶舎論』では随眠の原語anuśayaを微細・随増・随逐・随縛の4つの意味に分析して語源的に解釈している〔『倶舎』20、T29-108a〕。<br> | ||
− | + | 種類としては、貪・瞋・慢・無明・見・疑の六随眠が説かれ、このなかの見を有身見・辺執見・邪見・見取・戒禁取の5つに開いて'''合計で10の随眠が説かれる'''〔倶舎論19、T29.0099a~b〕。<br> | |
− | また、六随眠のなかの[[とん|貪]] | + | また、六随眠のなかの[[とん|貪]]を欲界の貪(欲貪)と色界・無色界の貪(有貪)とに分けて全部で7種の随眠が説かれる〔瑜伽師地論8,T30.0313b〕。 |
:随逐有情、名随、行相微細、名眠、如人睡眠行相難了。〔『倶舎論記』19、T41-291a〕 | :随逐有情、名随、行相微細、名眠、如人睡眠行相難了。〔『倶舎論記』19、T41-291a〕 | ||
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特に[[ゆいしき|唯識]]派でいう随眠とは、煩悩の[[しゅうじ|種子]]としての随眠。煩悩の眠れる状態。煩悩の潜在的ありよう。[[あらやしき|阿頼耶識]]のなかの煩悩を生じる可能力(種子)。生死するかぎり、常に有情に随逐する(随って存在する)から随といい、蔵識(阿頼耶識。潜在的な根本心)のなかに眠伏する(潜在する)から眠という。煩悩の顕在的ありようである[[てん|纏]]に対比する概念。麁重の異名である。 | 特に[[ゆいしき|唯識]]派でいう随眠とは、煩悩の[[しゅうじ|種子]]としての随眠。煩悩の眠れる状態。煩悩の潜在的ありよう。[[あらやしき|阿頼耶識]]のなかの煩悩を生じる可能力(種子)。生死するかぎり、常に有情に随逐する(随って存在する)から随といい、蔵識(阿頼耶識。潜在的な根本心)のなかに眠伏する(潜在する)から眠という。煩悩の顕在的ありようである[[てん|纏]]に対比する概念。麁重の異名である。 | ||
− | 常に身心につきまとい、[[あらやしき|阿頼耶識]]の中に隠れひそんでいる煩悩の[[しゅうじ|種子]] | + | 常に身心につきまとい、[[あらやしき|阿頼耶識]]の中に隠れひそんでいる煩悩の[[しゅうじ|種子]]を意味する。煩悩がそのように阿頼耶識の中に眠っている位を「随眠位」と呼んで、これに対して煩悩が具体的に働く位を「[[てんい|纏位]]」(paryavasthā)とよんで区別している。 |
:於諸自体中、所有種子、若煩悩品所摂、名為麁重、亦名随眠。〔『瑜伽師地論』2,T30-284c〕 | :於諸自体中、所有種子、若煩悩品所摂、名為麁重、亦名随眠。〔『瑜伽師地論』2,T30-284c〕 |
2024年3月22日 (金) 14:46時点における最新版
随眠
anuśaya अनुशय (S)
原語は、内心に潜む悪に傾こうとする力を意味し、広くは煩悩一般を表すことばである。
煩悩の異名としての随眠。煩悩は有情(生きもの)に随逐する(随って働く)から随といい、その行相(働きのありよう)は微細にして知り難いこと、睡眠中の如くであるから眠という。『倶舎論』では随眠の原語anuśayaを微細・随増・随逐・随縛の4つの意味に分析して語源的に解釈している〔『倶舎』20、T29-108a〕。
種類としては、貪・瞋・慢・無明・見・疑の六随眠が説かれ、このなかの見を有身見・辺執見・邪見・見取・戒禁取の5つに開いて合計で10の随眠が説かれる〔倶舎論19、T29.0099a~b〕。
また、六随眠のなかの貪を欲界の貪(欲貪)と色界・無色界の貪(有貪)とに分けて全部で7種の随眠が説かれる〔瑜伽師地論8,T30.0313b〕。
- 随逐有情、名随、行相微細、名眠、如人睡眠行相難了。〔『倶舎論記』19、T41-291a〕
- 根本煩悩現在前時、行相難知故、名微細。二随増者、能於所縁及所相応、増惛滞故。言随逐者、謂、能起得、恒随有情、常為過患。不作加行、為令彼生、或設劬労、為遮彼起、而数現起故、名随縛。由如是義故、名随眠。〔『倶舎』20、T29-108a〕
特に唯識派でいう随眠とは、煩悩の種子としての随眠。煩悩の眠れる状態。煩悩の潜在的ありよう。阿頼耶識のなかの煩悩を生じる可能力(種子)。生死するかぎり、常に有情に随逐する(随って存在する)から随といい、蔵識(阿頼耶識。潜在的な根本心)のなかに眠伏する(潜在する)から眠という。煩悩の顕在的ありようである纏に対比する概念。麁重の異名である。
常に身心につきまとい、阿頼耶識の中に隠れひそんでいる煩悩の種子を意味する。煩悩がそのように阿頼耶識の中に眠っている位を「随眠位」と呼んで、これに対して煩悩が具体的に働く位を「纏位」(paryavasthā)とよんで区別している。
- 於諸自体中、所有種子、若煩悩品所摂、名為麁重、亦名随眠。〔『瑜伽師地論』2,T30-284c〕
- 煩悩者、亦略有二種。謂、纏及随眠。〔『瑜伽』64、T30-656a〕
- 煩悩種子、未害未断、説名随眠、亦名鹿重。〔『瑜伽』65、T30-661b〕
- 二取習気、名彼随眠。随逐有情、眠伏蔵識、或随増過故、名随眠。〔『成唯識論』9、T31-48c〕