だいじょうきしんろん
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大乗起信論
如来蔵思想の系統に立つ大乗仏教の論書。インドの2世紀の有名な仏教詩人アシヴァゴーシャ(馬鳴)の作と伝えられているが、実際の成立は5-6世紀のころだろうと考えられている。
漢訳は、真諦(パラマールタ)と実叉難陀(シクシャーナンダ)の訳とされる2種類があり、一般には真諦の訳が多く用いられている。サンスクリット訳もチベット訳も残っていない。
インド大乗仏教の後期の論書に影響を及ぼしていないこともあって、インド成立に疑いをもつ意見もあり、具体的な成立事情はよくわからないが、大乗仏教の中心思想を理論と実践の両面から手際よく要約しており、短編だが、古くから中国・日本では盛んに愛読され、その教義は仏教各宗の思想や教義に大きな影響を与えた。
構成
全体は5章に分かれている。
第1章 因縁分(いんねんぶん) 論を著す理由
第2章 立義分(りゅうぎぶん) 問題の所在、後の第3章における理論の骨子
第3章 解釈分(げしゃくぶん) 理論の開陳
第4章 修行信心分(しゅぎょうしんじんぶん) どのような信心をいかに修行するか
第5章 勧修利益分(かんしゅりやくぶん) 論の教えを実践することの利益を示して実践を勧める
大綱論より各論へ、理論から実践へと説きすすめる段章は、仏教論書としてはまことに理路整然としており、とりわけ論述の力点は第3章の理論的説明の部分に注がれている。
綱格
全体の綱格としては、一心二門三大ということがいわれる。
一心とは衆生心のこと。それを真如門(しんにょもん)(永遠相、本質界)と生滅門(しょうめつもん)(現実相、現象界)の二面から見る。
また、三大とは体(本体)・相(様相)・用(ゆう、作用)のことで、事物のあり方についていったものであり、事物を支える根本の理法(真如)のあり方でもあるから、体大・相大・用大と称した。
5世紀ころには如来蔵を原理とする永遠相(本質界)と阿頼耶識を原理とする現実相(現象界)の関係づけ、ないし統一が試みられるにいたり、経典としては『楞伽経』の成立となり、さらに進んで『大乗起信論』が作成された。
なお、本覚・不覚・始覚の概念も本書に見える。