「ちゅうべんふんべつろん」の版間の差分
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仏教の根本思想である[[ちゅうどう|中道]]を唯識説に基づいて説き示そうとするのが、本書の趣旨である。それを明らかにしているのが冒頭の偈である。 | 仏教の根本思想である[[ちゅうどう|中道]]を唯識説に基づいて説き示そうとするのが、本書の趣旨である。それを明らかにしているのが冒頭の偈である。 | ||
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すなわち、虚妄分別が存在するから'''空でもなく'''、所取・能取が存在しないから'''不空でもない'''、という非空・非不空の中道が、[[ちゅうがんは|中観派]]とは異なった理論のもとに主張されている。<br> | すなわち、虚妄分別が存在するから'''空でもなく'''、所取・能取が存在しないから'''不空でもない'''、という非空・非不空の中道が、[[ちゅうがんは|中観派]]とは異なった理論のもとに主張されている。<br> | ||
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[[あんね|安慧]]の副註(Tīkā)を伴ったサンスクリット原典は、シルヴァン・レヴィによって発見され、山口益博士によって校訂出版された。その際、和訳と漢訳・チベット語訳との対照本も同じ鈴木学術財団より出版された。サンスクリットの校訂出版は、バッターチャルヤ氏とG・トゥッチ氏によるものと長尾雅人博士によるものもある。 | [[あんね|安慧]]の副註(Tīkā)を伴ったサンスクリット原典は、シルヴァン・レヴィによって発見され、山口益博士によって校訂出版された。その際、和訳と漢訳・チベット語訳との対照本も同じ鈴木学術財団より出版された。サンスクリットの校訂出版は、バッターチャルヤ氏とG・トゥッチ氏によるものと長尾雅人博士によるものもある。 |
2017年6月29日 (木) 23:27時点における版
中辺分別論
Madhyāntavibhāga 弥勒が説いた説を無著がまとめて、偈頌とし、無著の弟の世親が長行で注釈を付けた。
中道(Madhya)と辺(極端)(anta)とを唯識説に基づいてに弁別し明確にしよう(vibhāga)とする論書。『大乗荘厳経論』と同じく、三性説、虚妄分別、所取と能取の顕現などが理論的に中心となっている。偈頌は弥勒作、長行は世親作とされる。
本書の所説は、『大乗荘厳経論』よりも組織的にまとめられているから、それよりも後に成立したと推測されている。
内容
仏教の根本思想である中道を唯識説に基づいて説き示そうとするのが、本書の趣旨である。それを明らかにしているのが冒頭の偈である。
虚妄分別は有る。しかしそこには〔虚妄分別のなかには〕二なるもの〔所取・能修〕は無い。しかるにそこには、〔空性のなかに〕それ〔虚妄分別〕が有る。
すなわち、虚妄分別が存在するから空でもなく、所取・能取が存在しないから不空でもない、という非空・非不空の中道が、中観派とは異なった理論のもとに主張されている。
テキスト
安慧の副註(Tīkā)を伴ったサンスクリット原典は、シルヴァン・レヴィによって発見され、山口益博士によって校訂出版された。その際、和訳と漢訳・チベット語訳との対照本も同じ鈴木学術財団より出版された。サンスクリットの校訂出版は、バッターチャルヤ氏とG・トゥッチ氏によるものと長尾雅人博士によるものもある。
梵本
- G.M.Nagao;Madhyāntavibhāga-bhāSya, Tokyo, 1964
- N.Tatia & A.Thakur;Madhyāntavibhāga-bhāSya, Patna, 1967
安慧釈梵本
- V.Bhattacharya & G.Tucci; Madhyāntavibhāgasūtrabhāṣyaṭīkā of Sthiramati, being a sub-commentary on Vasubandhu's bhāṣya on the Madhyāntavibhāgasūtra of Maitreyanātha, pt.1 (Caucutta Oriental Series 24) London, 1932
- S.Yamaguchi; Sthiramati, Madhyāntavibhāgaṭīkā, exposition systématique du Yogācāravijñaptivāda, Nagoya, 1934
- S.Yamaguchi; Yānānuttaryaparicchedah, Le dernier chapitre dans laṃadhyāntavibhāgaṭīkā de Ācārya Sthiramati d'après le manuscrit découvert par M.Sylvain Lévy,1933
- R.C.Pandeya; Madhyāntavibhāgaśāstra, Dehli, 1971
漢訳
チベット訳
- dBus dan mthah rnam par hbyed pahi tshig lehur byas pa(中辺分別論頌) 東北No.4021, 影印No.5522
- dBus dan mthah rnam par hbyed pahi hgrel pa (中辺分別註) 東北 No.4027, 影印No.5528
安慧釈チベット訳
- dBus dan mthah rnam par hbyed pahi hgrel bśad (中辺分別註疏) 東北No.4032, 影印No.5534
英訳
- Th.Stcherbatsuky; MadhyāntavibhaNga, Discourse on Discrimination between Middle and Extremes, ascribed to Maitreya and commented by Vasbandhu and Sthiramati, translated from the Sanskrit and Tibetan, Bibliotheca Buddhica No.30 Moscou-Leningrad,1938
- D.L.Friedman; Sthiramati,MadhyāntavibhāgaTīkā, Analysis of the Middle Path and the Extremes. Utrecht, 1937
- P.W.O'Brien; Translations, A chapter on reality from Madhyāntavibhāgaśāstra. MonumentaNipponica IX.1/2, 1953
和訳
- 山口益 『中辺分別論釈疏』 名古屋 1935 (S.Yamaguchi; Le traduction japonaise de la MadhyāntavibhāgaTīkā avec de nombreuses notes, Nagoya, 1935)
- 長尾雅人 「中正と両極端との弁別」 『世界の名著 大乗仏典』 中央公論社 1967
- 長尾雅人 「中辺分別論」 『大乗仏典15 世親論集』 中央公論社 1976