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異熟

旧訳の「果報」

　過去の善悪によって得た果報の総名。果が因の性質とは異なって成熟することを言う。
　善業によって楽果を感じ、悪業によって苦果を感じるように、楽果は善性ではなく無記性である。これによって、善性と無記性とは類を異にしているので、善性の業に対して異類と言うべきである。苦果を悪業に対する場合も、苦果は悪性ではなく無記性であるから、因と果との性質を異にしている。これによって異熟果と言う。

　また、因と果とが必ず時間を隔て、異時に於いて熟するから、異熟と言う。

異類しこうして熟す。是れ異熟の義なり。　　　　〔倶舎論 ６〕

異熟というは、あるいは異時に熟す。あるいは変異して熟す。あるいは異類として熟す。　　　　〔成唯識論述記 ２末〕

異熟因

vipāka-hetu, vipāka-ākhyaḥ････hetuḥ (S)
　六因の一つで、善悪の二業をいう。
　道徳的な意味での原因。先になした善あるいは悪の行為（業）によって、後に好ましい、あるいは好ましからぬ境遇を得るという因果関係において、原因（業）を異熟因とよび、結果を異熟果とよぶ。この場合、因は善または悪であるが、果は無記（中性）である。〔倶舎論６、瑜伽師地論３６,T30-484b〕

異熟果

vipāka-phala, vipākadāna (S)
　五果の一つで、六因の内の異熟因からの二報をいう。
　異熟因から生ずる果をいう。善または悪の業力によって招かれた無記の結果のこと。因は善または悪であるが、その熟し得た果は無記であるから、異熟という。
　たとえば、われわれの存在は無記であって、善悪の業の力の所感であるから、人身の主体は異熟果という。それは種子から芽が出て果実が熟するまでに時間がかかるように、原因からいくばくかの時を経てから生ずる。五果の一つ。〔倶舎論６、瑜伽師地論９、T30-318a〕

　異処に熟する果也。

異熟生

vipāka-ja (S)
　大乗では、異熟と異熟生を別け、阿頼耶識を異熟とし、眼耳鼻舌身意の六識を異熟生とする。これは、六識の異熟は、阿頼耶識の種子‥‥すなわち異熟‥‥より生ずる義があるからである。
　異類・異時に成熟して生じた結果。道徳的先行条件の結果。

• 　『倶舎論』においては、異熟因から生じたもののことをいい、異熟果をいう。
  
• 　唯識説においては、①第八識の総報の果体（結果そのもの）を異熟・真異熟というのに対し、これから生じた前六識の別報の果（貴賎・貧富など）をいう。②この総・別の二報に通じて用いる。　　〔成唯識論１、T31-5b〕

異熟識

vipāka-vijñāna (S)
　阿頼耶識の異名。三能変の第一の異名。過去の業によってもたらされた結果としての識。　〔成唯識論１、T31-5b〕

異熟障

　自然の果報として仏法を修行することのできない領域。たとえば、三悪趣または無想天など。〔倶舎論１７〕